テキスト投稿テスト
公開 2023/08/02 16:36
最終更新
2023/08/04 23:11
💎商2部以降 エトラ左右なし
※朝のベッドで照れずにじゃれ合える程度の距離感
夢の中で、誰かが泣いていた。
痛かったのか、
辛かったのか、
悲しかったのか、
苦しかったのか、
理由ははっきりとわからないけれど、
幼い誰かが泣いていた。
うずくまって、丸くなって、何をも聞きたくないと耳をふさいで、息すら漏れないよう、必死に抑えて。
——ああ、あれは。
ふと、視界の外が明るい気がして意識が浮いた。
昨日はずいぶんと疲れて、倒れこむように眠ってしまったせいで目覚まし時計を設定した記憶がない。もしかしたら寝坊してしまっただろうか。
「……? ……あれ??」
慌てて目を開こうとするのに、自分の瞼は意思に反して上下ぴったりとくっついたままだ。
あれ、なんでだ、とどんな状態になっているのかを触って確認しようとした手も、どうやらどこかに挟まってしまっているらしく、ぱたぱたと手首の先が動く程度。
けれど、鼻腔いっぱいに広がる香りはよく知ったもので、なんとなく想像がついてしまう。
手が挟まった、少し震えるぬくもりの原因も。
「うう……リチャードさん。笑ってないで起きてもらえないでしょうか」
口に出してみたら思いの外情けない声が出てしまった。
それが面白かったのか、震えるだけだった顔の前にある肌は、くつくつと響く優しい音に変わる。もう一度リチャード、と呼べば、観念した相手から応えが返った。
「おはようございます、正義。よい朝ですね」
「まったくだよ。おはよう。折角リチャードが早起きしてる朝なのに、目が開かない」
「くっ、……それは、お気の毒なことで」
「笑ってるしなあ。美しいお声が震えておられますが!」
「いえ、そんなことは」
「ああもう!」
夢の中で泣いていたのは、鏡の中にいる姿を何度も見た子どもだった。
昔の、自分。
きっと、何かおかしな夢でも見ていたのだろう。開かない瞼はきっと泣きながら寝ていたからだろうし、目の前の楽しそうに笑ってくれる誰かさんに捕まっているのは、夜中の間にもぐりこんだか、または引きずり込まれたかしたのかもしれない。
子どもをあやすような温度の高い手で背中を撫でられて、すっと形の整った顎を頭のてっぺんに乗せられて、猫が喉を鳴らすようにくつくつと柔らかい音のする首に額をつけて。
ゆっくり息を吸い込むと、全身がリチャードに包まれているようだ。
あーあ、とぼやくように呟けば、なんです、とあたたかな声がすぐ耳元。
ぼそりともう一度答えれば、目が開かなくても簡単に想像がつくリチャードの長い睫毛がぱちりと一度上下して、明るい白に塗りつぶされた向こうで楽しそうな笑声が弾けた。
涙でかぴかぴの目は開かないし、
捕まったままの手は動かないけれど、
こんな明るい笑い声で起こしてもらえる。
まったく、憎らしいほどに
今日はなんていい朝なんだ、と。
『今日はなんていい朝だ』
2023/4/13 Twitter投稿:再掲
※朝のベッドで照れずにじゃれ合える程度の距離感
夢の中で、誰かが泣いていた。
痛かったのか、
辛かったのか、
悲しかったのか、
苦しかったのか、
理由ははっきりとわからないけれど、
幼い誰かが泣いていた。
うずくまって、丸くなって、何をも聞きたくないと耳をふさいで、息すら漏れないよう、必死に抑えて。
——ああ、あれは。
ふと、視界の外が明るい気がして意識が浮いた。
昨日はずいぶんと疲れて、倒れこむように眠ってしまったせいで目覚まし時計を設定した記憶がない。もしかしたら寝坊してしまっただろうか。
「……? ……あれ??」
慌てて目を開こうとするのに、自分の瞼は意思に反して上下ぴったりとくっついたままだ。
あれ、なんでだ、とどんな状態になっているのかを触って確認しようとした手も、どうやらどこかに挟まってしまっているらしく、ぱたぱたと手首の先が動く程度。
けれど、鼻腔いっぱいに広がる香りはよく知ったもので、なんとなく想像がついてしまう。
手が挟まった、少し震えるぬくもりの原因も。
「うう……リチャードさん。笑ってないで起きてもらえないでしょうか」
口に出してみたら思いの外情けない声が出てしまった。
それが面白かったのか、震えるだけだった顔の前にある肌は、くつくつと響く優しい音に変わる。もう一度リチャード、と呼べば、観念した相手から応えが返った。
「おはようございます、正義。よい朝ですね」
「まったくだよ。おはよう。折角リチャードが早起きしてる朝なのに、目が開かない」
「くっ、……それは、お気の毒なことで」
「笑ってるしなあ。美しいお声が震えておられますが!」
「いえ、そんなことは」
「ああもう!」
夢の中で泣いていたのは、鏡の中にいる姿を何度も見た子どもだった。
昔の、自分。
きっと、何かおかしな夢でも見ていたのだろう。開かない瞼はきっと泣きながら寝ていたからだろうし、目の前の楽しそうに笑ってくれる誰かさんに捕まっているのは、夜中の間にもぐりこんだか、または引きずり込まれたかしたのかもしれない。
子どもをあやすような温度の高い手で背中を撫でられて、すっと形の整った顎を頭のてっぺんに乗せられて、猫が喉を鳴らすようにくつくつと柔らかい音のする首に額をつけて。
ゆっくり息を吸い込むと、全身がリチャードに包まれているようだ。
あーあ、とぼやくように呟けば、なんです、とあたたかな声がすぐ耳元。
ぼそりともう一度答えれば、目が開かなくても簡単に想像がつくリチャードの長い睫毛がぱちりと一度上下して、明るい白に塗りつぶされた向こうで楽しそうな笑声が弾けた。
涙でかぴかぴの目は開かないし、
捕まったままの手は動かないけれど、
こんな明るい笑い声で起こしてもらえる。
まったく、憎らしいほどに
今日はなんていい朝なんだ、と。
『今日はなんていい朝だ』
2023/4/13 Twitter投稿:再掲
