リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン生誕祭2023
公開 2023/12/24 02:41
最終更新
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ハッピーバースデー、リチャードさん!
辛抱強いあなたが、心からの幸せをたくさん胸に抱いて笑顔になれることを願っています。
大切な人たちに、たくさん祝ってもらって下さいね…!!
誕生日に合わせたSSを書くのは到底間に合わないので、お祝い代わりにあったかくて笑顔になれるSSを。
2022年の辻村先生のブログに掲載された誕生日SSで登場した、テディベアコート関連です。
ブログ・個人サイトともに同文掲載します。
動作のお題20-10
💎商 3部時空 エトラ&みのる
「ただいまー。うわー、家の中すっごいあったかい……!」
「まったくです。今日は冷えますね」
季節は冬。
今年は暖冬だと言われていたし、実際つい昨日までは比較的小春日和とでも言うようなぽかぽか陽気が続いていたせいで、油断した。天気予報で見て覚悟はしていたものの、たった一晩で初秋から真冬へぱたりと季節のカードを返すように急激に降下した外気温に、飛行機の上で季節さえも飛び越える生活をしていたはずの正義は帰宅した玄関の中のあたたかさにぶるりと身体を震わせる。一、二歩先に玄関の中に身体を滑り込ませていたリチャードは、そんな正義を見て喉を鳴らすようにして笑った。
近年の不安定な気象は昨日今日始まったものではないが、それにしても同じ国の同じ地域にいるはずなのにこの温度差は身体に堪える。いや、同じ場所にいるからこそ身体が混乱して誤作動を起こしていると言うべきか。これは自分よりも色々な意味で耐性のないだろう中学生のみのるが体調を崩さないように、しっかり気を配る必要がありそうだ。
正義がそんなことを考えながら外のみぞれに濡れたリチャードのコートの肩を払っていると、「おかえりなさーい」と明かりのついた部屋の中から声が聞こえてきた。間違いなくみのるの声だが、それにしてもやけにくぐもって聞こえる気がする。
少し不思議に思って正義がリチャードの方を見ると、リチャードも同じように感じたのかほとんど同時に正義の方を向いた。苦しそうには聞こえなかったが、何かあっただろうか。二人揃って小首を傾げると、これまた同時に上着に腕を通したまま声の聞こえたリビングへ足を向ける。
「みのるくん? どうし……うわあ!」
「正義? みのるさま……おや」
「あ、正義さん、リチャードさん、おかえりなさい。ごめんなさい、今ちょっと前が」
「びっくりした! 乾燥機から出してくれてたんだね。ごめん、今日タオルとかいっぱい洗濯してて」
ドアを開けながら部屋の中にいるだろうみのるに声をかけた正義の言葉は、その途中で驚きに変わった。
部屋の中を洗濯物が歩いている。いや、違う。顔が隠れるくらいの洗濯物を腕に抱えたみのるが、よたよたと危なっかしい足取りでリビングを横切ろうとしていたのだ。くぐもった声に聞こえたのは、声がタオルに吸い込まれてしまったからだろう。
手伝うよ、とその手からタオルの小山を引き取るために正義が手を伸ばした瞬間。
ほとんど前が見えていないみのるの足元を、さっと何かが横切った。
正義とリチャードの帰宅にはしはしと飛び出してきた愛犬たちだ。もう随分と老犬の域に踏み入れている彼らだが、留守をしがちで長期に会えないことも多かったというのに飼い主の気配はよく覚えている。帰宅すると、一生懸命に走ってきて出迎えしようとする、健気な奴らだ。
けれど、今に限って言えばタイミングが悪かった。
「あっ?」
「えっ?」
前が見えないながらも一歩踏み出しかけたみのるのすぐ足元。掠めたそれに驚いて、みのるは彼らを蹴ったり踏んだりしてしまわないように、咄嗟に動きを止めようとしたようだ。しかし、動きかけていた身体は簡単にその場に留まることなどできなくて。
一瞬、みのるが足先だけでステップを踏むような形になったのを見たと正義が思う間に、その腕に抱えられたタオルたちと一緒にみのるの身体は宙に浮いた。
ぽーんと。
まるで漫画か何かのシーンのように、半ば万歳をしたみたいに両手を上げて。
放り投げられたタオルたちの向こうでびっくりしたみのるの目が見開かれるのが、正義にはスローモーションのように見える。
それに対応する正義自身も、自分がスローモーションの世界で動いているように感じた。
宙に浮いたみのるの身体を受け止めようと手を伸ばしながら踏み出した足。
そのすぐ下に滑り込んできた、ぱたぱたと揺れる尻尾の感触。
驚いて咄嗟に別の場所に足を置こうとして、床に落ちたタオルに滑って崩したバランス。
みのるを受け止めることはできても、これは背中から思い切り打ち付けそうだ、と一瞬の間に正義は覚悟を決めた。
腕の中に捕まえたみのるを抱え込むと、次に来るだろう衝撃に備えて正義はぎゅっと瞳を閉じる。
が、一秒、二秒と経過しても思っていた痛みがない。
「……あれ?」
「あれ、ではないでしょう。まったく。お二人とも、大丈夫ですか」
正義がぱちりと目を開くと、背中にはふわふわとした感触があった。腕の中には目をぱちくりさせているみのるがいる。まさかジローかサブローを下敷きに、と思うまでもなく、ふわふわのふかふかは深々と息を吐いた。正義の顔の横には、大きな等身大テディベアの腕。リチャードが着たままだったテディベアのコートのものだ。
つまりは、リチャードがみのるを抱えたままひっくり返りかけた正義を受け止めたのだろう。リチャードの上に正義が乗って、正義の上にみのるが乗って、3人でドミノ倒しにでもなったようにラグの上に倒れている。
ほう、と安心して息を吐いたら、なんだかおかしくなってしまって。
「ふ……っ」
「……ははっ」
「ふふっ、あはは……!」
一人がふっと笑い出すと、たちまち他の二人にも伝染する。
こんなベタな展開、漫画でも物語でもそうそう無いに違いない。
寒い冬のリビングは、大きくて優しいテディベアに包まれて、あたたかな笑い声に満ちていった。
【着地地点にテディベア】
『リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン生誕祭2023』
Aglaia
https://gracesxaglaia.web.fc2.com/
辛抱強いあなたが、心からの幸せをたくさん胸に抱いて笑顔になれることを願っています。
大切な人たちに、たくさん祝ってもらって下さいね…!!
誕生日に合わせたSSを書くのは到底間に合わないので、お祝い代わりにあったかくて笑顔になれるSSを。
2022年の辻村先生のブログに掲載された誕生日SSで登場した、テディベアコート関連です。
ブログ・個人サイトともに同文掲載します。
動作のお題20-10
💎商 3部時空 エトラ&みのる
「ただいまー。うわー、家の中すっごいあったかい……!」
「まったくです。今日は冷えますね」
季節は冬。
今年は暖冬だと言われていたし、実際つい昨日までは比較的小春日和とでも言うようなぽかぽか陽気が続いていたせいで、油断した。天気予報で見て覚悟はしていたものの、たった一晩で初秋から真冬へぱたりと季節のカードを返すように急激に降下した外気温に、飛行機の上で季節さえも飛び越える生活をしていたはずの正義は帰宅した玄関の中のあたたかさにぶるりと身体を震わせる。一、二歩先に玄関の中に身体を滑り込ませていたリチャードは、そんな正義を見て喉を鳴らすようにして笑った。
近年の不安定な気象は昨日今日始まったものではないが、それにしても同じ国の同じ地域にいるはずなのにこの温度差は身体に堪える。いや、同じ場所にいるからこそ身体が混乱して誤作動を起こしていると言うべきか。これは自分よりも色々な意味で耐性のないだろう中学生のみのるが体調を崩さないように、しっかり気を配る必要がありそうだ。
正義がそんなことを考えながら外のみぞれに濡れたリチャードのコートの肩を払っていると、「おかえりなさーい」と明かりのついた部屋の中から声が聞こえてきた。間違いなくみのるの声だが、それにしてもやけにくぐもって聞こえる気がする。
少し不思議に思って正義がリチャードの方を見ると、リチャードも同じように感じたのかほとんど同時に正義の方を向いた。苦しそうには聞こえなかったが、何かあっただろうか。二人揃って小首を傾げると、これまた同時に上着に腕を通したまま声の聞こえたリビングへ足を向ける。
「みのるくん? どうし……うわあ!」
「正義? みのるさま……おや」
「あ、正義さん、リチャードさん、おかえりなさい。ごめんなさい、今ちょっと前が」
「びっくりした! 乾燥機から出してくれてたんだね。ごめん、今日タオルとかいっぱい洗濯してて」
ドアを開けながら部屋の中にいるだろうみのるに声をかけた正義の言葉は、その途中で驚きに変わった。
部屋の中を洗濯物が歩いている。いや、違う。顔が隠れるくらいの洗濯物を腕に抱えたみのるが、よたよたと危なっかしい足取りでリビングを横切ろうとしていたのだ。くぐもった声に聞こえたのは、声がタオルに吸い込まれてしまったからだろう。
手伝うよ、とその手からタオルの小山を引き取るために正義が手を伸ばした瞬間。
ほとんど前が見えていないみのるの足元を、さっと何かが横切った。
正義とリチャードの帰宅にはしはしと飛び出してきた愛犬たちだ。もう随分と老犬の域に踏み入れている彼らだが、留守をしがちで長期に会えないことも多かったというのに飼い主の気配はよく覚えている。帰宅すると、一生懸命に走ってきて出迎えしようとする、健気な奴らだ。
けれど、今に限って言えばタイミングが悪かった。
「あっ?」
「えっ?」
前が見えないながらも一歩踏み出しかけたみのるのすぐ足元。掠めたそれに驚いて、みのるは彼らを蹴ったり踏んだりしてしまわないように、咄嗟に動きを止めようとしたようだ。しかし、動きかけていた身体は簡単にその場に留まることなどできなくて。
一瞬、みのるが足先だけでステップを踏むような形になったのを見たと正義が思う間に、その腕に抱えられたタオルたちと一緒にみのるの身体は宙に浮いた。
ぽーんと。
まるで漫画か何かのシーンのように、半ば万歳をしたみたいに両手を上げて。
放り投げられたタオルたちの向こうでびっくりしたみのるの目が見開かれるのが、正義にはスローモーションのように見える。
それに対応する正義自身も、自分がスローモーションの世界で動いているように感じた。
宙に浮いたみのるの身体を受け止めようと手を伸ばしながら踏み出した足。
そのすぐ下に滑り込んできた、ぱたぱたと揺れる尻尾の感触。
驚いて咄嗟に別の場所に足を置こうとして、床に落ちたタオルに滑って崩したバランス。
みのるを受け止めることはできても、これは背中から思い切り打ち付けそうだ、と一瞬の間に正義は覚悟を決めた。
腕の中に捕まえたみのるを抱え込むと、次に来るだろう衝撃に備えて正義はぎゅっと瞳を閉じる。
が、一秒、二秒と経過しても思っていた痛みがない。
「……あれ?」
「あれ、ではないでしょう。まったく。お二人とも、大丈夫ですか」
正義がぱちりと目を開くと、背中にはふわふわとした感触があった。腕の中には目をぱちくりさせているみのるがいる。まさかジローかサブローを下敷きに、と思うまでもなく、ふわふわのふかふかは深々と息を吐いた。正義の顔の横には、大きな等身大テディベアの腕。リチャードが着たままだったテディベアのコートのものだ。
つまりは、リチャードがみのるを抱えたままひっくり返りかけた正義を受け止めたのだろう。リチャードの上に正義が乗って、正義の上にみのるが乗って、3人でドミノ倒しにでもなったようにラグの上に倒れている。
ほう、と安心して息を吐いたら、なんだかおかしくなってしまって。
「ふ……っ」
「……ははっ」
「ふふっ、あはは……!」
一人がふっと笑い出すと、たちまち他の二人にも伝染する。
こんなベタな展開、漫画でも物語でもそうそう無いに違いない。
寒い冬のリビングは、大きくて優しいテディベアに包まれて、あたたかな笑い声に満ちていった。
【着地地点にテディベア】
『リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン生誕祭2023』
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