動作のお題20-08
公開 2023/08/29 10:47
最終更新
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💎商2部以降秘書時空 エトラ左右なし
※動作のお題は、お題から想像したイラスト・風景を挿絵にしたらどんな文章になるかと考えて書いていっているシリーズです。
直接動作と関係ない話になっている可能性もありますが、想像上のイラスト(頭の中だけ)からの二重変換のため、ふわっと雰囲気で読んで下さい。
「そういえばさあ、この間すごい怖い話を聞いたんだ」
「怖い話、ですか。怪談の類の話でしょうか」
「いんや。でもリチャードにとっては怪談話の方が怖くないかもしれない話」
くふくふと、くぐもった笑いがすぐ隣——枕一つ分の距離から聞こえてきた。
そう、すぐ隣。
少しの身動ぎも、笑うような吐息も、ほかほかとしてくる体温も、触れようとせずともダイレクトで伝わるようなごく近い距離。
着陸予定地の天候不順で、当初の目的地とは遠く離れた空港に下ろされてしまった夜だった。
とにかく今夜は一泊して明日の朝の便で移動できるように手配するしかないと、空港のアナウンスを聞きながら近くのホテルを探すも、周りは似たような状況の利用客ばかり。ようやく見つけたホテルの空室はシングル一部屋だけで、とりあえずこちらだけをそのホテルに押し込んで自分はまたどこか別の場所を探す、と言い張る正義に馬鹿を言うなと呆れたのは数刻前だ。
きちんと休んで欲しいから一人で使ってくれだとか、きっとベッドも広くないからとか、同じベッドで寝るなんて心臓がうるさすぎて寝れそうにないだとかと情けないことをつらつらと述べたかと思ったら、「お前は、俺の『好きな人』なんだから」などと目元を赤くして宣う。
そんな顔を見せておいて、一人土地勘のない夜の空港に放り出すなどできるわけがない。
まだ何かを言っていた正義の首を引っ掴んで、シャワールームに放り込む頃には観念していたが。
シングルルームのセミダブルのベッドに無理やり二人で転がれば、しばらく隣の枕で唸っていた正義は何かを喋って気を紛らわそうと思ったらしい。初めは落ち着きなく取り留めのない話を転々とさせていたものの、僅かに触れている正義の体温がほんの少し高くなったのに気付く頃には、彼の口調はずいぶんとふやけたものになっていた。
「下村がさ、何かの時にヘンリーさんにお笑い番組の話したらしくて」
「ヘンリーに」
「うん。で、どうしてそうなったって感じだけどさあ、結構ノリノリでボケとツッコミの練習してるって、言ってたんだよ。あのヘンリーさんに、ボケとツッコミを装備させるってさあ」
「……おそらく彼も好きでやっているのでしょうが」
「吉本やら笑点やらを真剣に勉強してるのを想像するとさあ。次に会う時、ツッコミ待ちでボケられたらどうしようなあ」
「それに応える心づもりが必要ですね」
「だよなあ。ほんと、あいつ、おおものだよ」
ふわっと欠伸した顔を見やれば、瞼は半分以上落ちかかっていた。
緊張して眠れそうにないなどと言っていたのは一体どこの誰なのだか、とため息には軽い息を吐くと不意に指が伸びてくる。
「……? 正義?」
目の前に落ちかかっていた髪が掬われて、少し節立った指がゆっくりと髪を梳いていく。
眠気に少しぼんやりとしたアンバーがとろりと融けて。
「りちゃーどは、ほんとに、きれいだなあ」
吐息を多分に含んだ光る何かを零した唇は、次の瞬間にはゆっくりとした寝息を立てだした。
取り残されたのは、跳ね上がった胸の鼓動と耳まで熱い顔。
思わず一瞬止めてしまっていた息を大きく吐き出して、腕で顔を覆う。
「…………なんでやねん」
ぽつりと漏れたツッコミは、静かな夜にそっと転がって消えていった。
『ツッコミを入れる』
2022/9/13 Twitter:再掲
動作のお題20
(配布元:追憶の苑 http://farfalle.x0.to/ )
※動作のお題は、お題から想像したイラスト・風景を挿絵にしたらどんな文章になるかと考えて書いていっているシリーズです。
直接動作と関係ない話になっている可能性もありますが、想像上のイラスト(頭の中だけ)からの二重変換のため、ふわっと雰囲気で読んで下さい。
「そういえばさあ、この間すごい怖い話を聞いたんだ」
「怖い話、ですか。怪談の類の話でしょうか」
「いんや。でもリチャードにとっては怪談話の方が怖くないかもしれない話」
くふくふと、くぐもった笑いがすぐ隣——枕一つ分の距離から聞こえてきた。
そう、すぐ隣。
少しの身動ぎも、笑うような吐息も、ほかほかとしてくる体温も、触れようとせずともダイレクトで伝わるようなごく近い距離。
着陸予定地の天候不順で、当初の目的地とは遠く離れた空港に下ろされてしまった夜だった。
とにかく今夜は一泊して明日の朝の便で移動できるように手配するしかないと、空港のアナウンスを聞きながら近くのホテルを探すも、周りは似たような状況の利用客ばかり。ようやく見つけたホテルの空室はシングル一部屋だけで、とりあえずこちらだけをそのホテルに押し込んで自分はまたどこか別の場所を探す、と言い張る正義に馬鹿を言うなと呆れたのは数刻前だ。
きちんと休んで欲しいから一人で使ってくれだとか、きっとベッドも広くないからとか、同じベッドで寝るなんて心臓がうるさすぎて寝れそうにないだとかと情けないことをつらつらと述べたかと思ったら、「お前は、俺の『好きな人』なんだから」などと目元を赤くして宣う。
そんな顔を見せておいて、一人土地勘のない夜の空港に放り出すなどできるわけがない。
まだ何かを言っていた正義の首を引っ掴んで、シャワールームに放り込む頃には観念していたが。
シングルルームのセミダブルのベッドに無理やり二人で転がれば、しばらく隣の枕で唸っていた正義は何かを喋って気を紛らわそうと思ったらしい。初めは落ち着きなく取り留めのない話を転々とさせていたものの、僅かに触れている正義の体温がほんの少し高くなったのに気付く頃には、彼の口調はずいぶんとふやけたものになっていた。
「下村がさ、何かの時にヘンリーさんにお笑い番組の話したらしくて」
「ヘンリーに」
「うん。で、どうしてそうなったって感じだけどさあ、結構ノリノリでボケとツッコミの練習してるって、言ってたんだよ。あのヘンリーさんに、ボケとツッコミを装備させるってさあ」
「……おそらく彼も好きでやっているのでしょうが」
「吉本やら笑点やらを真剣に勉強してるのを想像するとさあ。次に会う時、ツッコミ待ちでボケられたらどうしようなあ」
「それに応える心づもりが必要ですね」
「だよなあ。ほんと、あいつ、おおものだよ」
ふわっと欠伸した顔を見やれば、瞼は半分以上落ちかかっていた。
緊張して眠れそうにないなどと言っていたのは一体どこの誰なのだか、とため息には軽い息を吐くと不意に指が伸びてくる。
「……? 正義?」
目の前に落ちかかっていた髪が掬われて、少し節立った指がゆっくりと髪を梳いていく。
眠気に少しぼんやりとしたアンバーがとろりと融けて。
「りちゃーどは、ほんとに、きれいだなあ」
吐息を多分に含んだ光る何かを零した唇は、次の瞬間にはゆっくりとした寝息を立てだした。
取り残されたのは、跳ね上がった胸の鼓動と耳まで熱い顔。
思わず一瞬止めてしまっていた息を大きく吐き出して、腕で顔を覆う。
「…………なんでやねん」
ぽつりと漏れたツッコミは、静かな夜にそっと転がって消えていった。
『ツッコミを入れる』
2022/9/13 Twitter:再掲
動作のお題20
(配布元:追憶の苑 http://farfalle.x0.to/ )
