雨音が響く寝室で
公開 2023/08/18 16:30
最終更新
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💎商2部以降 出来上がってる時空 エトラ左右なし
さあさあ、ざあざあ。
ぽつん、ぽつん。
ぱちぱちぱち。
——雨が、降っている。
ふわふわと眠りの淵を浮いたり沈んだりしているうちに、窓ガラスを叩く音にふわりと意識が浮上した。
遮光カーテンは光を遮っても、音までは完全に吸収してはくれない。
雨粒が弾けて当たる音に、一度浮き上がった意識は完全に眠りの淵から離れてしまったようだった。
今は一体何時だろうと肌触りの良いシーツから顔を出して、瞳に映った光景に思わず動きが止まる。
さあさあ、ざあざあ。
カーテンの向こうから雨の音だけが聞こえる部屋の中。
足元のほんの少しだけ、カーテンを開けているのだろうか、部屋の中はほんのり明るい。
その部屋の、ベッドの上。
自分と向かい合うように。
すう、すう。
雨の音にかき消されそうなゆっくりとした音を立てて、眠っている顔があった。
長時間のフライトで、ジェット・ラグがあるだろうから今日はゆっくり寝ていていいぞ、と言っていたのは目の前の彼で、今は昼間の時間であるだろうに。
気持ちよさそうに寝ている顔は、見知ったようで、知らない顔のようで。
少し乱れた前髪が額にかかっていると、普段より幾分幼く見える。
「——……せいぎ」
なぜ一緒になって転がっているのか。
みのるさまはもう学校に行ったのだろうに、今日の予定は問題ないのか。
そんなことを思いながら、目の前にある顔が不思議で仕方ない。
手を伸ばしてむに、と頬を押し込んでみると、むぅ、と吐息に唸る音が混じる。
覚醒しきっていない頭には、それはちょっとしたおもちゃのようで、そのままむにむに、ふにふにとつついていると——
「む……ぅーん……? んー……?」
「……正義」
流石に気付いた正義の眉がぐぐっと寄って、続いて少し弛緩してから、目の前でゆっくり瞼が持ち上がった。薄明かりの中では色濃く見える、琥珀の瞳。少しぼんやりとしたその上を艶のある睫毛が何度か往復して、ようやくこちらの顔の上で像を結ぶ。
「……おはよう。リチャード、起きてた」
「おはようございます。あなたこそ、どうかしたのですか」
「んー……湯山様の予約が、変更になって……時間ができたなーって」
「それで、昼寝ですか?」
「んー……」
まだ眠そうにふわりと欠伸をした顔は、もう一度ゆっくりと目を閉じて、同じくらいゆっくり目を開く。
「たまには、いいかと思って。いつも俺ばっかりいい思いしてるから」
「いい思い?」
「目を覚ました時にさ。一番にリチャードの顔が目に入ると、なんか、こう……ああ、好きだなーって思うと言うか……綺麗だなー、幸せだなーって思うと言うか。だから、たまにはいいかなって」
「…………つまり、あなたは私が目覚めて一番に正義の顔を見て、しみじみとあなたのことが好きだと感じて欲しいということですか」
「んー……そう……。……ん? んん?? いや、いやいや」
「それはまた、素晴らしいお気遣いをどうも」
「ええーと、それは、そのっうわ」
眠たそうにふわふわとした口調だった正義は、急に我に返ったようにぱちぱちぱちと瞬いて、慌てて身体を起こそうとする。それを両手で捕まえて、引き寄せて。
雨音が響く寝室で、首まで赤い大型犬を捕まえて。
甘く吹き込んだ言葉は、彼の耳にだけ、届けばいい。
『雨音が響く寝室で』
2022/9/2 Twitter投稿:再掲
さあさあ、ざあざあ。
ぽつん、ぽつん。
ぱちぱちぱち。
——雨が、降っている。
ふわふわと眠りの淵を浮いたり沈んだりしているうちに、窓ガラスを叩く音にふわりと意識が浮上した。
遮光カーテンは光を遮っても、音までは完全に吸収してはくれない。
雨粒が弾けて当たる音に、一度浮き上がった意識は完全に眠りの淵から離れてしまったようだった。
今は一体何時だろうと肌触りの良いシーツから顔を出して、瞳に映った光景に思わず動きが止まる。
さあさあ、ざあざあ。
カーテンの向こうから雨の音だけが聞こえる部屋の中。
足元のほんの少しだけ、カーテンを開けているのだろうか、部屋の中はほんのり明るい。
その部屋の、ベッドの上。
自分と向かい合うように。
すう、すう。
雨の音にかき消されそうなゆっくりとした音を立てて、眠っている顔があった。
長時間のフライトで、ジェット・ラグがあるだろうから今日はゆっくり寝ていていいぞ、と言っていたのは目の前の彼で、今は昼間の時間であるだろうに。
気持ちよさそうに寝ている顔は、見知ったようで、知らない顔のようで。
少し乱れた前髪が額にかかっていると、普段より幾分幼く見える。
「——……せいぎ」
なぜ一緒になって転がっているのか。
みのるさまはもう学校に行ったのだろうに、今日の予定は問題ないのか。
そんなことを思いながら、目の前にある顔が不思議で仕方ない。
手を伸ばしてむに、と頬を押し込んでみると、むぅ、と吐息に唸る音が混じる。
覚醒しきっていない頭には、それはちょっとしたおもちゃのようで、そのままむにむに、ふにふにとつついていると——
「む……ぅーん……? んー……?」
「……正義」
流石に気付いた正義の眉がぐぐっと寄って、続いて少し弛緩してから、目の前でゆっくり瞼が持ち上がった。薄明かりの中では色濃く見える、琥珀の瞳。少しぼんやりとしたその上を艶のある睫毛が何度か往復して、ようやくこちらの顔の上で像を結ぶ。
「……おはよう。リチャード、起きてた」
「おはようございます。あなたこそ、どうかしたのですか」
「んー……湯山様の予約が、変更になって……時間ができたなーって」
「それで、昼寝ですか?」
「んー……」
まだ眠そうにふわりと欠伸をした顔は、もう一度ゆっくりと目を閉じて、同じくらいゆっくり目を開く。
「たまには、いいかと思って。いつも俺ばっかりいい思いしてるから」
「いい思い?」
「目を覚ました時にさ。一番にリチャードの顔が目に入ると、なんか、こう……ああ、好きだなーって思うと言うか……綺麗だなー、幸せだなーって思うと言うか。だから、たまにはいいかなって」
「…………つまり、あなたは私が目覚めて一番に正義の顔を見て、しみじみとあなたのことが好きだと感じて欲しいということですか」
「んー……そう……。……ん? んん?? いや、いやいや」
「それはまた、素晴らしいお気遣いをどうも」
「ええーと、それは、そのっうわ」
眠たそうにふわふわとした口調だった正義は、急に我に返ったようにぱちぱちぱちと瞬いて、慌てて身体を起こそうとする。それを両手で捕まえて、引き寄せて。
雨音が響く寝室で、首まで赤い大型犬を捕まえて。
甘く吹き込んだ言葉は、彼の耳にだけ、届けばいい。
『雨音が響く寝室で』
2022/9/2 Twitter投稿:再掲
