ロマンスが楽しめない問題について
公開 2026/02/25 19:50
最終更新 2026/02/25 19:54

■背景 #

 既に色々なところで公言しているが、映画や小説などにおいて苦手なジャンルがある。それがタイトルに掲げている「ロマンス」である。特に、毎年何本も作られているような売り出しの若手俳優を登用した青少年の恋愛モノは観る拷問だと豪語している。そういった青春ロマンスか『ムカデ人間』を観ろと強制されたら『ムカデ人間』を取るかもしれない(※斎城は汚い描写と過度に痛そうな描写が苦手)。それくらい観るのが苦痛である。
 さて、それほどまでに苦手だと言うならば観なければ良いのだが、近頃思うところがある。これは機会の損失なのではないのかと。苦手なジャンルだからと遠ざけてしまうことで、素晴らしい作品に出会う機会を自ら潰してしまっているのではないだろうか。映画を趣味として7年程経つ。そろそろ好きなジャンルを楽しむだけではなく、映画の見識を広めたいフェーズに入ってきた。そこで、この記事では作品に対する視野を広げるべく、苦手なジャンルである「ロマンス」を面白いと感じない理由を挙げ、面白いと感じられない原因の仮説とそれに対する反証を行うことで真因を探り、どうすれば楽しめるようになるのかについて考えていきたいと思う。なお、近年様々な愛の形の認知が広く進みつつあるが、全てを取り扱うと話が発散するため、この記事で挙げる「ロマンス」は男女の恋愛にまつわるものに限定する。

■面白いと感じない理由 #

①登場人物の気持ちが読解できない
 この記事を書くに至ったきっかけの1つに、昨年リバイバル上映された『海がきこえる』がある。あらすじに興味は湧かなかったが、子どもの頃から慣れ親しんだスタジオジブリ製作であるし、80年代から90年代にかけてのあの空気感が好きなので観に行ってきた。本作のリバイバルはSNSでも話題になり、世間でも絶賛されている名作である。しかし、私には登場人物の気持ちが全然解らなかった。主人公がいつヒロインを好きになったのかとか、ヒロインの主人公に対する感情の変化とか、気持ちの動きが全然読解できなかったのである。個人的には『イレイザーヘッド』より難解だと思う、それくらい解らなかった。私は『海がきこえる』に描かれるような所謂「青少年特有の感情の揺らぎ」を読み解くのが苦手なのだと思う。思えば、若い頃は現実でも周囲の人間の一貫性のない言動や行動にイラついていた。人間の心理は複雑で、そう簡単に白黒決められるものではないが、あの未成熟であるが故のフワフワした感じが未だにどうも理解できない。その時の気分でコロコロ意見を変えるんじゃない!自分を持て!と言いたくなる。

②登場人物の不合理な言動や行動にイラつく
 報連相をしろ!話を最後まで聞け!会話のキャッチボールをしろ!⋯と、ロマンスを観てると思うことが多い。それが出来ていたら絶妙なすれ違いやドラマチックな展開は生まれないのかもしれないが、どうもイライラしてしまう。あと、最近『タイピスト!』を観て思ったのだが、女性主人公のロマンスで、相手役の男性がヒロインのことをやたら傷つけたり怒らせたりしてくることが多くないだろうか。一説には、女性は感情のジェットコースターを体験すると恋に落ちやすいらしいので、それを狙ってのことなのだろう。これに対しても苛立ちが募る。そんな酷い男は止めておけ、絶対長続きしないぞ⋯と拳を握りながら観てしまう。

③そもそも興味を唆られる要素がない
 元も子もない話である。ロマンスを好む人がどのような楽しみ方をしているか、私の推測を示そう。大きく分けて下記の2つのパターンがあると思う。1つは主人公もしくは相手役に感情移入しながら観るというもの。ロマンスの主人公・相手役の多くは美男美女(設定上そうではなくても、役者やキャラクターのビジュアルはそう)である。登場人物に自己投影して、こんなカッコいい(可愛い)人とドラマチックな恋愛ができたら⋯と想像して楽しんでいるのではないかと思う。私は人間の顔面の良し悪しにあまり興味がないのと、自他の線引きが強いが故に登場人物へ自己投影することが殆ど出来ないので、こういった楽しみ方はできない。
 もう1つは第三者視点で俯瞰して観るというもの。所謂「神視点」から主人公と相手役の恋愛を見守るという見方だ。感覚的には友達の恋バナを聞いてる感じに近いのではないかと思う。私も物語は俯瞰して観るので、感覚にはこちら寄りになる。ただ、本当の友達の恋バナならまだしも、少なくとも私はフィクションの恋バナを聴いて(観て)楽しいとはならない。余程何か心に刺さる部分がない限りは。

■なぜ面白いと感じられないのか #

〈仮説と反証〉
①恋愛リテラシーが低い
 これは否定できない。青春時代が暗かったかというとそうでもないのだが、中高生の時分はまあ色々あり人に対して心を閉ざしていたので、若い頃に恋愛らしい恋愛をした記憶がない。青春ロマンスへの理解の低さはここにあるのかもしれない。では、これに対して反証を試みてみよう。恋愛リテラシーの低さがロマンスを楽しめない原因と成り得るか、答えはノーである。スリラーが好きな諸氏、殺人を犯したことがあるだろうか。⋯イエスと言われても困るが、多くの人はノーであろう。アクションが好きな諸氏、実弾で銃を撃ったことはあるだろうか。⋯これも殆どの人がノーであろう。SFを好きな人が宇宙に行った経験もなければ、ファンタジーを好きな人が魔法を使った経験もないはずである。経験がないと楽しめないのなら、殆どの作品を楽しむことは出来ないことになる。しかし、実際はそうではない。それが答えである。
 
②共感力が低い
 前述の通り、私は自己投影があまり出来ないので「登場人物と同じ気持ちになる」という意味では確かに共感力は低い。しかし「登場人物の気持ちを推察する」という意味ではわりに高い方だと思う。子どもの頃、道徳の授業で模範解答を答えては教師から称賛されたものである。ある出来事に対して人はどんな気持ちになるか、どういう言葉をかけたら人はどう感じるか。感情は合理機能なので、その法則が解れば推測はそれほど難しくない。「青少年特有の感情の揺らぎ」を読み解くのが難しいのは、それが合理的なものではないからなのだろう。共感力の低さ自体が原因だとは思わないが、これは1つの要因と言える。

③ストライクゾーンが狭い
 これに対しては特に反証が思い浮かばない。これが真因の可能性が高い。確かにロマンスや恋愛の描写で「良い」と感じた作品もある。ただ、その数がとても少ないのである。次のセンテンスでは「良い」と感じた作品の傾向から、どうすれば楽しめるようになるのか探りたいと思う。

■どうすれば楽しめるようになるのか #

〈作品から分析〉
 良いと感じた作品や描写について思い返すと、2つの傾向が見えてきたため下記にまとめてみた。

①大人同士の恋愛
 精神的に成熟した大人同士の恋愛は心理的な合理性があるため、上述のようにイライラすることもなく登場人物の心理に納得して楽しむことができる。例えば『ラ・ラ・ランド』がそうである。ラストに納得感があるし、それぞれの気持ちの切なさも理解できる。他には、王女に少女的な可愛らしさはあるが『ローマの休日』も良いと思う。こちらもラストに納得感があるし、ほろ苦く切ないエンドだ。最近観た映画の中では『ポトフ 美食家と料理人』も良かった。恋愛を前面に押し出している作品ではないが、セリフ回しやカメラワークがオシャレな大人の恋愛だと思う。⋯これらの作品は全てビターエンド的だが、特別悲恋が好きというわけではない。題材が「大人の恋愛」だと、どうしてもほろ苦い悲恋になりがちである。もし大人の恋愛で大団円ハッピーエンドがあるならそれはそれで観てみたい。

②カラッとした一途な恋愛
 落ち着きのある大人の恋愛を良いと思う一方、真っ直ぐ誠実に相手のことが好きだというストレートな恋愛も観ていて気持ちがいい。好きな人に振り向いて欲しくて頑張る姿は応援したくなる。作品で言えば以前別のところで紹介したことのある『50回目のファーストキス』、恋愛ものではないが『アラジン』や『スラムダンク』なども良いと思う。ただ、ここに足してはいけないのは「湿度」である。例えば「好きな相手に嫌われたちゃった⋯」とぐじゅぐじゅうじうじしたり、情けなくめそめそと相手に縋ったりという展開になると、私の苛立ちメーターがピンッと振り切れる。この世でジメジメしていて嬉しいものはアジア系のホラーぐらいしかない。人間関係に湿度を持ち込まないで欲しい。

 上記の2つの傾向に合致した作品を見つけることが、恋愛作品を楽しめるようになるポイントだと思う。

■まとめ #

 今まであれこれ考えたことを包括すると、結局のところロマンスを楽しめるかどうかは恋愛に対する価値観(恋愛観)が大きいということが解ってきた。人間関係を描くドラマ、特に恋愛という限定的な範囲を主体にした作品では、評価する物差しが自分の恋愛観しかなくなるのだろう。しかし、人気のある恋愛作品が合わないということは、ここでも私の価値観は世間とズレていることになる。人間社会に溶け込むというのは本当に難しいものだ。妖怪としての自認を強めたところで、本記事の締めとしたい。
斎城 つかさ
プロフィールページ
鬱作品のにおいを嗅ぎつけては現れ、ニコニコ微笑む妖怪。人間に擬態するのに疲れている。
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