【小説】悪の教典【感想】
公開 2026/02/17 08:28
最終更新 2026/02/17 08:29
熱血教師の学園モノ、不謹慎なコメディ、エロティシズム、ジュブナイル群像劇、サイコスリラー、サバイバルゲーム⋯本作は様々なジャンルの側面を持ち、エンターテイメントに富んでいる。描写に無駄がなく、伏線回収も見事だ。色々と語りたいことはあるが、やはり特筆すべきは主人公であるハスミンこと蓮実聖司の人物造形が非常によく練られていることだろうか。前半では女子生徒との距離感が気持ち悪く、その女子生徒に手を出すわ美少女を狙ってクラスに引き入れているわでドン引きだった。しかし、後半で語られる彼の過去や思想の中には共感できる部分もあり、私自身が過去にした発言の内容にピタリと当て嵌まる台詞もあり驚いた。邪魔者を次々と葬っていくところには一種の爽快感もある。彼のように欲望に忠実であればどんなに気分が良いだろう⋯と思わなくもない。蓮実はサイコパスであると言及されているが、他者に全く情がないわけではなく、キャラクター性に含みを持たせている。それは清田梨奈の家を燃やしておきながら梨奈が生き延びていたことを素直に喜んだり、憂実を殺せなかったり、美彌を殺すことに躊躇したり⋯といったところに感じられる。私が蓮実に1番「情がある」と感じたシーンは、憂実を自殺に追い込んだ男を使って「共感性のテスト」をしたシーンである。何故蓮実本人が「自分には共感性がない」と実感するシーンに「情」を感じるのか。まず、蓮実は自殺前に会った憂実に「殺してほしい」と頼まれたが身体が言うことを聞かず殺せなかった。そんなことは今までなかったという。これは蓮実にとって憂実が「大切な存在」だからである。「感情を教えてもらう」内に、蓮実に欠けていた他者への「情」というものが芽生えたのではないかと思う。「情」のある人間ならば解ると思うが、大切な人を苦しめ死に至らしめた相手のことを憎いと思うのは当然のことである。その憎い相手のことを責め苦に遭わせ、殺したいとすら思うだろう。ただ「共感性のテスト」をするだけならば、その辺の何の罪もない通行人でいいはずである。それなのに、わざわざ憂実を苦しめ傷つけた相手を選ぶのは、蓮実にとって憂実が大切な人であったからに他ならない。蓮実がロリコン気質なのも憂実の一件が心に残っているからではないかと思う。また、熊谷先生の言うように、蓮実はサイコパスというより情緒面が未発達なだけだったのかもしれない。「欲望に忠実」というのは、言ってしまえば「幼稚」ということだと思う。人間は社会性の生き物であって、その社会に適応するには相応の分別と理性が必要である。それが大人というものだろう。しかし、情緒面が未熟な子どもは分別や理性といった感情のブレーキが利かない。自分の欲望のために邪魔者を殺す、つまり暴力でいなしているわけで、それは子どもが思い通りにならないと相手を叩くのと本質的には変わらないと思う。高い知能でパッケージされているだけで、情緒面は未発達で幼稚⋯というのが蓮実の実態ではないだろうか。

 蓮実の人物造形だけで長々と語ってしまった。それだけでよく練られているということだろう、貴志祐介氏の構想力には感服である。映画版を観たらこちらに追記したいと思う。
斎城 つかさ
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鬱作品のにおいを嗅ぎつけては現れ、ニコニコ微笑む妖怪。人間に擬態するのに疲れている。
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