ひと夏の恋のエドティナ
公開 2024/08/15 09:28
最終更新
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それはまるで、夢のように。
夏の日の幻のように——
『夢の浅瀬』
十年ぶりに帰ってきた故郷の風景は、少年の日の記憶そのままに俺を迎えてくれた。
大学留学のため渡った国で、卒業後はそのまま長期インターンに入ったため、気付けば二十七歳まで故郷に戻る事なく海外生活を続けていた。
これも近い将来継ぐことになる家業の為と思えば、充実した十年だったと思う。
久しぶりに立ち寄った実家では父も母も変わることなく、俺と同じく里帰りしていた双子の弟も交えて家族水入らずの夜を過ごせた。
インターンの夏季休暇は、今日からちょうど一週間。
幼馴染の顔を見て回るもよし、家族揃って温泉地にでも遠出するもよし。
さてどんな予定を組もうかと弟のマッシュと話していた折、そう言えば兄貴は墓地に寄ってきたのかと聞かれて初めて、墓参りを失念していたことに気がついた。
何はなくとも実家にと思って脇目もふらずに戻ってきたと伝えると、弟は家族想いの兄貴らしいやと豪快に笑う。
先ずは明日の朝一番で墓参りに行くことにして、その夜は床に就いた。
▽
沿岸部の平野にある実家から自転車で坂道を十分ほど登ったところに、曽祖父の代からの墓がある。
俺は起床後すぐに朝食を済ませ、七時を回ったところで家を出発し、墓地に到着した。
盆の時期とは言え、流石にこの時間は人影はほとんどない。
早朝でも蒸し暑さでシャツに汗が滲むが、薄曇りの天候で日差しが弱いのは幾分助かる。
自転車のカゴから花束と線香を取り出して、家の墓前へ向かった。
ふと違和感を覚えたのは、焼香を終えて合わせた手から顔を上げたときである。
背後にか弱い足音が聞こえて振り向くと、ある墓の前で一人の少女が佇んでいるのが見えた。
薄水色のワンピースにシンプルなサンダルを履き、柔らかな翡翠色の髪をひとつに束ねた華奢な体付きの少女だ。
自分の家の墓の前であろうに、彼女は花を手向けるでもなく焼香するでもなく、ただその墓の前で立ち尽くしている。
故人に想いを馳せているのだろうと、足早に立ち去ればそれで終わる筈だった。
だが、俺の足はその場に根を張ってしまったかの様に一歩も動けなかった。
彼女の滑らかな頬に一筋、涙が伝うのを見てしまったから。
声も出さずに、じっとその墓の前で静かに涙を溢す彼女の姿がとても……
とても、きれいだと思ってしまった。
この世のものとは思えないほどに——
続
夏の日の幻のように——
『夢の浅瀬』
十年ぶりに帰ってきた故郷の風景は、少年の日の記憶そのままに俺を迎えてくれた。
大学留学のため渡った国で、卒業後はそのまま長期インターンに入ったため、気付けば二十七歳まで故郷に戻る事なく海外生活を続けていた。
これも近い将来継ぐことになる家業の為と思えば、充実した十年だったと思う。
久しぶりに立ち寄った実家では父も母も変わることなく、俺と同じく里帰りしていた双子の弟も交えて家族水入らずの夜を過ごせた。
インターンの夏季休暇は、今日からちょうど一週間。
幼馴染の顔を見て回るもよし、家族揃って温泉地にでも遠出するもよし。
さてどんな予定を組もうかと弟のマッシュと話していた折、そう言えば兄貴は墓地に寄ってきたのかと聞かれて初めて、墓参りを失念していたことに気がついた。
何はなくとも実家にと思って脇目もふらずに戻ってきたと伝えると、弟は家族想いの兄貴らしいやと豪快に笑う。
先ずは明日の朝一番で墓参りに行くことにして、その夜は床に就いた。
▽
沿岸部の平野にある実家から自転車で坂道を十分ほど登ったところに、曽祖父の代からの墓がある。
俺は起床後すぐに朝食を済ませ、七時を回ったところで家を出発し、墓地に到着した。
盆の時期とは言え、流石にこの時間は人影はほとんどない。
早朝でも蒸し暑さでシャツに汗が滲むが、薄曇りの天候で日差しが弱いのは幾分助かる。
自転車のカゴから花束と線香を取り出して、家の墓前へ向かった。
ふと違和感を覚えたのは、焼香を終えて合わせた手から顔を上げたときである。
背後にか弱い足音が聞こえて振り向くと、ある墓の前で一人の少女が佇んでいるのが見えた。
薄水色のワンピースにシンプルなサンダルを履き、柔らかな翡翠色の髪をひとつに束ねた華奢な体付きの少女だ。
自分の家の墓の前であろうに、彼女は花を手向けるでもなく焼香するでもなく、ただその墓の前で立ち尽くしている。
故人に想いを馳せているのだろうと、足早に立ち去ればそれで終わる筈だった。
だが、俺の足はその場に根を張ってしまったかの様に一歩も動けなかった。
彼女の滑らかな頬に一筋、涙が伝うのを見てしまったから。
声も出さずに、じっとその墓の前で静かに涙を溢す彼女の姿がとても……
とても、きれいだと思ってしまった。
この世のものとは思えないほどに——
続
FF6、FF12二次創作字書きです。割と良くある話ばかり書いてます( ◜ω◝ )
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