現パロ学園ロクティナ(2)
公開 2024/10/30 19:35
最終更新 -



ロックが初めて保健室に駆け込んできたのは、彼が中等部に入学して間もなくのことだった。

その頃からスポーツ万能だったロックは、入部したての陸上部以外にも野球部やサッカー部の助っ人として引っ張り凧の日々で、それだけ生傷の絶えない日々だった。
元々の性格が明るい社交家だから、あちこちのチームに顔を出せるのは楽しいよと話してくれたけれど、こうもしょっ中怪我してばかりではご家族の心配も尽きないことだと思う。

軽い擦り傷から、治るのに時間の掛かる打撲や脱臼……ロックの保健室通いは、週に一度どころではない。そんな日々は、夏休み直前の七月まで続いた。

このままではいけない。
ある日の放課後、私はロックの腕に包帯を巻きながら言った。

『ロック。本当にプロのアスリートになりたいなら、怪我をしないようにプレーする練習もしなくちゃいけないわ』
『そうなの?怪我したって3日くらいで治っちゃうし、全然平気なんだけどなあ。それこそ小学校の頃はすぐ骨折してたけど、最近じゃそんなことなくなってきたし。ガンジョーになったんだろ、きっと』
『ダメよ。あなたは今まだ成長期の真っ只中で、これからもっと背も伸びるし身体も強くなる。そんな時に自分を雑に扱ってばかりじゃいけない。本当なら真っ直ぐ伸びる筈なのに、怪我をする度に歪んでしまって、正しく成長できなくなってしまうのよ。それでも良いの?』
『……』

今思い出してみても、中学生に上がったばかりの彼に対して言葉がキツくなってしまったと思う。
それを聞いたロックはがっくりと肩を落とし、挨拶もせずに保健室から出て行ってしまった。

もっと彼の話をきちんと聞いてあげれば良かった。頭ごなしに叱るばかりじゃなく、怪我をしないためのストレッチや準備運動を詳しく教えてあげられればよかった——

当時二十二歳で保健医に着任したばかりの私は、配慮の足りない自分の言い方にひどく後悔した。
顧問の先生に連絡先を聞いて、きちんとフォローをしてあげた方が良いのだろうか……
あれこれと悩んでばかりで、その日の日誌も一文字も進まず保健室のデスクで頭を抱えていると、コンコンコン、と窓を三回ノックする音が聞こえた。

ベランダに面した窓からこちらを覗き込んでいたのは、数分前に立ち去ったばかりのロックだった。

『ロック……!帰ったんじゃなかったの?』
『うん。顧問のレオ先生と話してきたんだ。やっぱり俺はプレー中の注意力が足りない、まだ成長途中なんだから慎重に身体のケアをするべきだって。本も借りてきたんだぜ、ホラ』

中等部の陸上部顧問のレオ先生は、部員の成績を伸ばすこと以上に体格の成長度に合わせた練習メニューを組む、地に足の着いた指導に定評のある指導者だ。
ロックの手には“怪我を防ぐための準備運動“と言った類のトレーニング書が三冊ほど握られていた。

『怪我しちまうと試合にも出られなくなるし、練習だって十分にできなくなるもんな。俺、夏休み中にちゃんと勉強するよ。闇雲にあちこちのチームに顔出したりしないで、休む日は休む!だから……』
『……なあに?』
『これから、先生に報告しに来てもいいかな?ちゃんと怪我せずやってるよって。怪我してない時でも、ここに来てもいい……?』

ひどく心配そうに訊ねるロックに、私は何度も頷いた。しょんぼりと項垂れた頭を撫でながら。

『もちろんよ。先生も安心するもの。だけど、それでも怪我しちゃった時には隠さずにちゃんと教えてね。約束よ——』


その年の夏休み明けから、ロックは毎日保健室にやってくるようになった。

一言挨拶しただけで去って行く日もあれば、座って話し込む日もあった。
部活で上手くいったこと、授業中に大失敗したこと。
気の合う友人の話、馬の合わない先輩後輩の話。
満面の笑顔で話してくれたり、ずっと不機嫌なままだったり……
本当に、いろんな顔を見せてくれた。


「高校三年生……。中等部から数えて、もう五年になるのね。本当にあっという間……」
「矢の如しとは正にこのことだね。こちらは何も変わっていないように感じるけれど、生徒たちの学年はあっという間に上がり、そして卒業していく——」
「……えっ?エドガー先生⁉︎」
「やあ、ティナ先生。お邪魔していたよ」

全然気が付かなかった。
ロックのクラス担任で数学担当の、エドガー先生が保健室のベッドに座って爽やかに微笑んでいた。……本当に、いつの間に?

「ごめんなさい、気が付かなくて!どこかお怪我でも?」
「いやいや、ただ立ち寄っただけだよ。タイミング的には、ほとんどロックと行き違いだったかな。彼は本当に、ここに足繁く通っているものだね」

エドガー先生は、マッシュ先生の双子のお兄さん。
同年代と言うこともあり、何かと相談に乗って貰うことも多かった。

「ああ……そうそう、先日のテストの話も聞きましたよ。エドガー先生のお陰で赤点回避できたって」
「元々やればできる子だからね。しかし彼の興味はスポーツと誰かにがっちり固定されているから、中々勉強に身が入らないというだけで」
「スポーツと、誰か?」
「ふふ。もちろん貴女ですよ、ティナ先生」

そう言ってエドガー先生はウィンクした。
……意味が、わからない。

「……。エドガー先生、それはどういう……」
「私も彼の担任を受け持ったのは今年の四月からだが、まあ噂通りだったな。友人も多く、部活動では後輩たちからの信頼も厚い。少々学力に難があるくらいだが、彼が希望する進路対策ならまだ間に合うレベルだ。そして彼は、自分が恋する人への好意を周囲にも一切隠し立てしない」
「恋する……人」
「貴女のことです。ティナ先生」

心臓の鼓動が大きくなった。
恋する人?
ロックが……私を?
まさか。有り得ない。

「流石に……それは、ちょっと考えられないんじゃないかしら?確かに彼は毎日のように顔を見せてくれるけれど、それは中等部からの習慣のようなものですし……恋と言うには余りに年も離れています。彼にとって私は、ある種の親戚のようなものなのかも」
「いやいや、彼のクラスでの態度を見れば一目瞭然ですよ。もうクラスの友人たちにも知れ渡ってる。ホームルームが終わったら堂々と“ティナの所行ってくる!“なんて宣言するくらいだからね。賢いと言えば賢いんだよな……。あそこまで自分はティナに惚れていると周囲にアピールしておけば、ライバルへの牽制にもなるし」
「ライバルって……」
「先日のテストの補習の際もね、口癖みたいに言うんです。ティナにカッコ悪いところ見せられない、ティナに心配かけられないってね。全く、羨ましいくらいに真っ直ぐだ。あのロックという生徒は」

とても、懐いてくれていると思っていた。
毎日ここに通ってくれて、何てことないお話をして。
保健室という日常から少し離れた場所にいる私は、きっと彼にとって程よい距離感で話せる存在なのだろうと。
だけど……。

「……夢にも思いませんでした。確かに、私にとってもロックは他の生徒とは少し違う……彼が放課後、ここに立ち寄ってくれることが日常の一部になりつつあった。でも……。どうすれば良いんでしょうね……」

思い返せば不思議ではあった。
ここに通い始めた中学一年生から、高校三年生まで——
——
FF6、FF12二次創作字書きです。割と良くある話ばかり書いてます( ◜ω◝ )
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