【131日目】お題「未来の記憶」
公開 2025/02/13 09:32
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小さな灰色の部屋。窓は1つ。部屋の中心には机、それを挟むように椅子が2つ。俺は、その椅子のうち、窓側に置かれている方に座っている。向かいの椅子には強面の中年男がこちらを睨んでいた。

「お兄さん、『未来の記憶の取扱に関する法律』――所謂『未来記憶法』知ってるよね?」

男――刑事が机に片腕を乗り出して問いかけてくる。

「はい」

俺は静かに答えた。

「だったらさ、お兄さんがしたことが『危険記憶秘匿義務違反』なのわかるでしょ?」
「はい」
「なんでやっちゃったの」

刑事の問いかけに、俺はこうなった経緯を思い出していた。


タイムトラベルの技術が確立され、一般にも提供されるようになって久しい現代。未来旅行はセレブの嗜みとされていた。俺は偶然、旅行会社が企画したキャンペーンで未来旅行に半額で行ける権利に当選して、未来のテーマパーク一泊二日の旅をしてきた。このテーマパークは過去からの旅行者向けに作られていて、未来の人間とはほぼ出会うことがなく安全に旅ができるのが売りだった。未来と言っても20年後の小旅行だったが、見たことのないものが溢れていて、興味深い旅だった。
ただ、俺の旅はそれだけでは終わらなかった。

「お兄さんの旅行プラン、未来のテーマパーク内で2日過ごして帰ってくるだけのものだったのに、どうしてテーマパークから抜け出しちゃったの」
「興味、としか言いようがありません」
「それで、未来の彼女のとこまで行っちゃったわけね。そこで知ったわけだ」
「はい。彼女が重い病にかかっていることを知りました。余命半年だと。それも、今の時代から検診をうけて、適切な治療を受けていたらあそこまで悪化することはなかったと」
「それで、君は帰ってきて彼女に言っちゃったわけだ。『未来で君が大変なことになるから今から病院にいけ』って」

俺は無言で頷いた。刑事はため息を吐いた。

「だって、言わずにいられますか?言えば、彼女はその病を早期発見できて、20年後に余命半年になんてならなくて済むんですよ!彼女を助けることができるのに、言わないなんて、そんなこと……!」
「できなかったんだねえ。でもそれ、いけないことなのよ。人の生死――所謂“運命”ってやつに関わる記憶は秘匿しなければならないって法律で決まってるからね」
「彼女があの病気で死ぬのは運命だから、受け入れろって言うんですか!?一言伝えれば助かるってわかってるのに、それもしないで?そんなの、そんなの、なんて人の心がない――」
「それが法律だからね。それにさ、旅行会社側もそういうトラブルが起こらないようにプラン組んでたよね。お兄さん、そのルール破って未来の人に会いに行っちゃったから、こうなっちゃったわけじゃない」
「自業自得だって言うんですか」
「そうだねえ」

自業自得、そう言われて、それまで熱くなっていた頭が急に冷めて、俺はその場でうなだれた。

「俺は、彼女は、これからどうなるんですか」
「刑としては記憶消去を受けてもらうことになるだろうねえ。君が未来で見た彼女に関する記憶、彼女が君から聞いた未来の記憶、それらを話した時の記憶……それから、今僕らが話してる記憶も、全部消すことになるよ」
「そうしたら、彼女は自分に迫る病の危険に気づかないまま、年をとって、あの病にかかって死ぬんですね。僕も何も知らないまま、彼女のそばにいながら何も気づかず、気づいたときには手遅れで」
「そうだよ」

未来の記憶が蘇る。病床の彼女。『あなたの時代くらいに病院に行っていたら、こうなってなかったんですって。お医者様が言ってたわ』と、悲しそうに話す彼女。彼女は俺に『助けて』とは言わなかった。もう諦めた目をしていた。それが俺には余計に悲しくて。だから、危険を冒してでも、助けたかった。

「“運命”ってなんなんですか。そこまでして守らなきゃならないものなんですか」
「さあなぁ。僕よりずっと上の偉い人たちなら知ってるんだろうけど。僕みたいな末端にはよくわからないよ」

よくわからないまま守られる運命によって、彼女は死へと導かれていくのか。
これ以上の絶望がこの世に存在するだろうか。
ああ、運命なんて、クソ喰らえだ。
目から溢れ出る涙も、喉から勝手に出てくる嗚咽も、何一つ抑えないままに、俺はただ運命を呪うことしかできなかった。



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きまぐれ創作者。一次も二次も夢BLGLNLなんでもござれな雑食。
二次の推しジャンルはオルタンシア・サーガ。
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