【108日目】お題「明日に向かって歩く、でも」
公開 2025/01/21 15:31
最終更新
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俺は勇者だ。一人きりで旅する勇者だ。勇者と言えば旅の仲間がいるイメージがあるかもしれないが、俺は仲間が居なくても十分強いし、仲間は作らない主義なのだ。
昨日、俺は、花の都と呼ばれる街で悪行を働いていた魔物を成敗した。今日、俺はこの街を出て、魔物に虐げられ、より過酷な環境にある人達を助けに行く。これからずっと、いつか魔王城にたどり着いて魔王を討伐するその日まで、光ある明日を信じ、それに向かって歩いていく。それが、俺の生き方だ。
「勇者様!その傷でどこに行かれるつもりですか!」
後ろから声がする。傷――昨日の魔物との戦闘で負った傷のことか。確かにまだ治りきってはいないが、既に血は止まり、塞がりかかっている。俺は回復力が他人より高いのだ。体力は回復しきってはいないが、これくらい、戦闘の支障にはならない。
「待ってください、勇者様!そんな体で旅を続けるなんて、正気じゃないですよ……!」
正気じゃない、か。単身で魔王を倒そうなんて正気じゃないって、旅に出たとき村の皆に言われたな。それでも俺は確信してたんだ。魔王を倒すことが俺の運命なのだと。
後ろから俺を追っていた声の主が、ついに俺に追いついて、腰辺りに飛びついた。俺は、強制的に歩みを止めさせられる。
「光ある明日に向かって歩く、素晴らしいお志です。でも、たまには今日に立ち止まって、休んだって誰も貴方を責めません。どうか、貴方を心配する私のために、今日ここで立ち止まり、休んでいってくださいまし」
そう言う彼女は泣いていた。泣きながら、強い眼差しで、俺を見ていた。俺を絶対に先に進ませないぞ、という気概を感じる。もちろん俺は、どれほど力が籠もっていようと、この子の細腕など簡単に振りほどける。それなのに、その濡れた力強い瞳を見ていたら、その気が起きなくなってしまった。とたん、体がずんと重く感じる。俺は、とてつもなく疲れている。それを今、こうして立ち止まって初めて、俺は自覚した。
「わかって、くださいましたか。ではこちらへ。お部屋の用意はしてありますから」
彼女は安堵したように涙を拭って、俺の片手をとって街の中へと導いていく。俺は重い体を引きずってそれに続いた。
いい湯をもらった。いい部屋でいい布団でたくさん休ませてもらった。食事はみんなおいしかった。どれも、ここしばらくの旅では得られなかった安らぎだった。
明日に向かって歩く、その信念は変わらない。でも、突き進み続けるばかりでなく、ごくたまに立ち止まるくらいはいいのかもしれないと、俺は少し考えを変えた。
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昨日、俺は、花の都と呼ばれる街で悪行を働いていた魔物を成敗した。今日、俺はこの街を出て、魔物に虐げられ、より過酷な環境にある人達を助けに行く。これからずっと、いつか魔王城にたどり着いて魔王を討伐するその日まで、光ある明日を信じ、それに向かって歩いていく。それが、俺の生き方だ。
「勇者様!その傷でどこに行かれるつもりですか!」
後ろから声がする。傷――昨日の魔物との戦闘で負った傷のことか。確かにまだ治りきってはいないが、既に血は止まり、塞がりかかっている。俺は回復力が他人より高いのだ。体力は回復しきってはいないが、これくらい、戦闘の支障にはならない。
「待ってください、勇者様!そんな体で旅を続けるなんて、正気じゃないですよ……!」
正気じゃない、か。単身で魔王を倒そうなんて正気じゃないって、旅に出たとき村の皆に言われたな。それでも俺は確信してたんだ。魔王を倒すことが俺の運命なのだと。
後ろから俺を追っていた声の主が、ついに俺に追いついて、腰辺りに飛びついた。俺は、強制的に歩みを止めさせられる。
「光ある明日に向かって歩く、素晴らしいお志です。でも、たまには今日に立ち止まって、休んだって誰も貴方を責めません。どうか、貴方を心配する私のために、今日ここで立ち止まり、休んでいってくださいまし」
そう言う彼女は泣いていた。泣きながら、強い眼差しで、俺を見ていた。俺を絶対に先に進ませないぞ、という気概を感じる。もちろん俺は、どれほど力が籠もっていようと、この子の細腕など簡単に振りほどける。それなのに、その濡れた力強い瞳を見ていたら、その気が起きなくなってしまった。とたん、体がずんと重く感じる。俺は、とてつもなく疲れている。それを今、こうして立ち止まって初めて、俺は自覚した。
「わかって、くださいましたか。ではこちらへ。お部屋の用意はしてありますから」
彼女は安堵したように涙を拭って、俺の片手をとって街の中へと導いていく。俺は重い体を引きずってそれに続いた。
いい湯をもらった。いい部屋でいい布団でたくさん休ませてもらった。食事はみんなおいしかった。どれも、ここしばらくの旅では得られなかった安らぎだった。
明日に向かって歩く、その信念は変わらない。でも、突き進み続けるばかりでなく、ごくたまに立ち止まるくらいはいいのかもしれないと、俺は少し考えを変えた。
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