続・ひと夏の恋のエドティナ
公開 2024/08/18 16:51
最終更新
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その子はブランフォード家の一人娘だと、親父が言った。
墓参りから戻ってからも何となく彼女のことが忘れられず、家族揃っての昼食の場で話を出したらそのように返された。
何でもブランフォード家は隣町に古くからある名家で、一人娘の名前はティナ。
両親の愛情を受けて育った彼女は近隣からの評判も良好であったが、高校に在学中に何らかの事情で退学を余儀なくされ、単身で遠方に就職させられたのだという。
勤め先がまた絵に描いたような封建社会で、三年前に地元を離れて以来盆にも正月にも帰省は許されず、そうこうしているうちに病弱であった母は亡くなり、父親も今年の春に交通事故で他界——
——目を覆いたくなる不幸が立て続けに起こったことであっという間に近隣に噂が広まり、さほど噂話に興味のない我が家にも話が伝わったということだ。
あの時じっと押し黙って一人墓前に佇んでいた彼女……ティナの気持ちは、想像するだけで胸が潰れそうになる。
恐らく勤め先の上司にやっとの思いで帰省の許可を貰い、死に目はおろか葬儀に出ることも叶わなかった両親に不義理を詫びていたのだろう。
線香や花束を用意するいとまも惜しんで墓地に辿り着いた彼女は、両親の眠る墓の前でただただ涙するしかなかったのだ。……そんな気がした。
音もなく流れた涙が、うっすらと汗ばんだ首筋へ伝い落ちる様子は今でもありありと思い出せる。
言葉も交わしていない、視線さえ合っていないのに、俺の心は彼女でいっぱいになっていた。
もう故郷を発ってしまったのだろうか。
ほんのひととき、両親の墓前に心で詫びて、そのまま聞こえざる叱責に急かされるまま勤め先へ戻って行ったのだろうか。
——悶々と考えることしかできずにいたその時の俺は、まさか翌々日に彼女と再会することになるとは夢にも思っていなかった。
▽
俺の実家から車で二十分ほどの山間に、それなりに知られた温泉街がある。
俺とマッシュの親戚への挨拶回りも一通り済んだところで、両親と合わせて四人で近場の温泉宿に一泊することになった。
家族水入らずでゆっくり湯に浸かるもよし、宿から徒歩圏内にある商店街で土産物を物色するもよし。
ひぐらしの鳴き声をBGMに、俺はマッシュと共に辺りを散策していた。
五十メートルほど続く商店街が途切れる辺りには立派な橋があり、その遥か下を一級河川が流れている。
そこは釣りの名所でもあるようで、橋の中程から見下ろすと釣り人が数メートル間隔で釣竿を構えているのが見えた。
せっかくだし降りてみようかとマッシュと頷き、橋を渡ったところにある階段を降り始めたその時、俺の呼吸が一瞬止まった。
——彼女だ。
一昨日、墓地で一人涙をこぼしていた美しい彼女——
ティナが、橋の真ん中に佇んでいた。
続
その子はブランフォード家の一人娘だと、親父が言った。
墓参りから戻ってからも何となく彼女のことが忘れられず、家族揃っての昼食の場で話を出したらそのように返された。
何でもブランフォード家は隣町に古くからある名家で、一人娘の名前はティナ。
両親の愛情を受けて育った彼女は近隣からの評判も良好であったが、高校に在学中に何らかの事情で退学を余儀なくされ、単身で遠方に就職させられたのだという。
勤め先がまた絵に描いたような封建社会で、三年前に地元を離れて以来盆にも正月にも帰省は許されず、そうこうしているうちに病弱であった母は亡くなり、父親も今年の春に交通事故で他界——
——目を覆いたくなる不幸が立て続けに起こったことであっという間に近隣に噂が広まり、さほど噂話に興味のない我が家にも話が伝わったということだ。
あの時じっと押し黙って一人墓前に佇んでいた彼女……ティナの気持ちは、想像するだけで胸が潰れそうになる。
恐らく勤め先の上司にやっとの思いで帰省の許可を貰い、死に目はおろか葬儀に出ることも叶わなかった両親に不義理を詫びていたのだろう。
線香や花束を用意するいとまも惜しんで墓地に辿り着いた彼女は、両親の眠る墓の前でただただ涙するしかなかったのだ。……そんな気がした。
音もなく流れた涙が、うっすらと汗ばんだ首筋へ伝い落ちる様子は今でもありありと思い出せる。
言葉も交わしていない、視線さえ合っていないのに、俺の心は彼女でいっぱいになっていた。
もう故郷を発ってしまったのだろうか。
ほんのひととき、両親の墓前に心で詫びて、そのまま聞こえざる叱責に急かされるまま勤め先へ戻って行ったのだろうか。
——悶々と考えることしかできずにいたその時の俺は、まさか翌々日に彼女と再会することになるとは夢にも思っていなかった。
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俺の実家から車で二十分ほどの山間に、それなりに知られた温泉街がある。
俺とマッシュの親戚への挨拶回りも一通り済んだところで、両親と合わせて四人で近場の温泉宿に一泊することになった。
家族水入らずでゆっくり湯に浸かるもよし、宿から徒歩圏内にある商店街で土産物を物色するもよし。
ひぐらしの鳴き声をBGMに、俺はマッシュと共に辺りを散策していた。
五十メートルほど続く商店街が途切れる辺りには立派な橋があり、その遥か下を一級河川が流れている。
そこは釣りの名所でもあるようで、橋の中程から見下ろすと釣り人が数メートル間隔で釣竿を構えているのが見えた。
せっかくだし降りてみようかとマッシュと頷き、橋を渡ったところにある階段を降り始めたその時、俺の呼吸が一瞬止まった。
——彼女だ。
一昨日、墓地で一人涙をこぼしていた美しい彼女——
ティナが、橋の真ん中に佇んでいた。
続
FF6、FF12二次創作字書きです。割と良くある話ばかり書いてます( ◜ω◝ )
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