水彩画の夢
公開 2025/01/09 08:30
最終更新 -
●登場人物

先生・・・国語の教員免許を持っている。

太郎・・・3年B組の生徒1。

花子・・・3年B組の生徒2。

大人・・・サイトウと呼ばれる男。昔は子どもだった。



  ゆっくりと明転。

  教室。

  舞台中央に机がひとつ。

  机の上には、紫陽花が花瓶に生けられている。

  紫陽花を中心に、椅子が客席に向かって、半円を描いて並べられている。



  生徒たち、画板を持ち、飛び飛びに椅子に座っている。

  生徒たち、紫陽花に向かって、木炭をかざし、画家っぽい素振りをしている。



先生 今日は、紫陽花のデッサンをしようと思います。



  生徒たち、ぱらぱらと拍手をする。



先生 先生は、国語の教員免許しかありませんので、美術のことはよく分かりません。



  教室には、いつの間にか、ひとりだけ大人が混ざっている。



先生 良く描けた人は、掲示板に貼り出しますので、皆さん、頑張ってください。はい、始め。



花子 (間髪入れず)出来ました。

先生 はい、花子さん。

花子 (画板の絵を皆に見せる)

全員 おー。

先生 はい、拍手。



  生徒たち、ぱらぱらと拍手をする。



太郎 出来ました。

先生 はい、太郎さん。

太郎 (画板の絵を皆に見せる)

全員 おー。

先生 はい、拍手。



  生徒たち、ぱらぱらと拍手をする。



  花子と太郎、大人をぼーっと見つめる。



大人 何だよ。



  花子、いつの間にか大人の右隣に居る。

  花子、いつの間にか、大人の絵を覗き込んでいる。



花子 (挙手して)はい。

先生 はい、花子さん。

花子 とても前衛的なタッチだと思いました。

大人 やめて。



  太郎、いつの間にか大人の左隣に居る。

  太郎、いつの間にか、大人の絵を覗き込んでいる。



太郎 (挙手して)はい。

先生 はい、太郎さん。

太郎 僕は、(絵を描くのが)ちょっと恥ずかしいのかなと思いました。

大人 やめて。

先生 先生はこう思うな。義務教育で、絵は採点されるものと刷り込まれているから・・・。

大人 やめてください。



  大人、いたたまれず、その場から逃げ出す。

  床に放り出された大人の画板の周りに、いつの間にか花子と太郎が集まっている。



花子 (挙手して)はい。

先生 はい、花子さん。

花子 表現することは、素晴らしいことです。

太郎 おー。

花子 周りと比べて、自分は上手い、自分は下手だと点数をつけるのは、批評ですので、それは表現ではないと思います。

太郎 おー。

花子 批評は、表現を記録する手段だと思います。批評は、記録の手段であることを、忘れてはなりません。

太郎 おー。



  花子、急に振り向き、太郎に向かって叫ぶ。



花子 わぁー!

太郎 わぁー!



  太郎、びっくりして、下手側に居た大人に向かって走り出す。

  大人、思わず、太郎を抱きしめる。



太郎 わぁー!(泣いている)

大人 おーおー。よし、よし。

花子 ちょっとそれっぽいことを発言したら、おー、だって。ちょっとそれっぽいからって、賛同しないでください。

太郎 わぁー!(泣いている)

花子 今は美術の時間です。自分だけの、自分の為の表現を発表した方がいいと思います。

太郎 わぁー!(泣いている)

花子 (挙手して)先生、太郎さんが泣いています。

先生 太郎さん、お菓子あります。

太郎 わぁー!(泣きやんでいる)



  太郎、上手側の先生に向かって走り出す。

  太郎、先生から個包装のお煎餅(2枚入り)を貰い、その場で開封し、食べ始める。



  花子、無言で先生を見つめる。

  先生、無言で花子を見つめ返す。



  花子、大人が居る下手側へ、つかつかと歩く。



花子 (大人のズボンを裾を引っ張り)ねぇ、ねぇ。

大人 なぁに、花子さん。

花子 描きなよ。

大人 え。

花子 描きなよ、続き。描きなよ、最後まで。誰に何と言われようと、最後まで描きなよ。なぜなら、表現することは、素晴らしいことだからです。

大人 花子さん。

花子 サイトウ。



  大人、両手を翼のように広げ、花子と太郎を呼ぶ。

  太郎、即座に大人へ向かって走り出す。

  大人、両脇に二人を抱きしめる。

  花子と太郎は、大人のズボンにぴとっとくっつく構図になる。



  先生、ぱらぱらと拍手をする。



先生 はい、では、掲示板に飾るのは、花子さんの絵にしましょう。

花子 やったぁ。

大人 そんなぁ。

太郎 これが社会か。

先生 はい、次は社会科です。39ページを開いて。



  生徒たち、自席に戻り、画板に挟まれていた社会科の教科書を開く。



先生 先生は、国語の教員免許しかありませんので、社会のことはよく分かりません・・・。



  先生が授業をしている声が響いている。

  ゆっくりと暗転。




         🐈🐈
ライター / 劇作家 🏖️

かもめの公式ブログです

🏖️🐈🐈🏖️

【📝お仕事のご依頼はこちら🪽】
https://x.gd/vFLZJ
最近の記事
社会人大学生になりました
この春から、社会人大学生になりました。 わーい!          🐈🐈 大人になると、頭の中に「でも、まぁ…
2025/03/26 08:00
水彩画の夢
●登場人物 先生・・・国語の教員免許を持っている。 太郎・・・3年B組の生徒1。 花子・・・3年B組の生徒2。 …
2025/01/09 08:30
天賦の才
先生・・・国語の教員免許を持っている。 太郎・・・3年B組の生徒1。 花子・・・3年B組の生徒2。 大人・・・サ…
2025/01/09 08:30
小道具
A・・・映画制作会社の小道具。 B・・・その場に、たまたま居合わせた物書き。   実話です。   居酒屋…
2025/01/09 08:25
説明台詞
●登場人物 A・・・女。 B・・・男。   明転すると男女が向かい合って座っている。   真っ白な背景に真っ…
2025/01/09 08:25
お米の妖精、味噌と出会う
お米・・・お米の妖精。全国の稲田に現れては、お米の素晴らしさを説いて回っている。 高田・・・会社員。神戸の老舗味噌屋…
2024/11/03 16:51
Mさんのこと
手術の前日は泣いてしまった。 カーテンで仕切られた病室で 誰にも知られないように 声を出さずに泣いた。 誰にも知ら…
2024/10/14 19:45
ロフト付きのお部屋
親友が生まれて初めてひとり暮らしをするという。 人生で大きな決断をした為だ。 彼女は「とにかくロフト付きのお部屋がい…
2024/09/16 15:15
わんこのかばん
最近、あゆみちゃんが荷造りをしている。 いそいそと、リュックに何かを詰め込んでいる。 お散歩グッズではなさそうだ。 …
2024/09/16 14:40
全部、更年期のせいだったかもしれない
《前回までのあらすじ》 https://simblo.net/u/hdE6XM/post/38939          🐈🐈 長いこと、婦人科に通っ…
2024/09/15 16:00
元気がないと言う勇気
来月、少し入院することになりました。 どうしても元気が出ないなぁ。 「元気がないです」と言うのは 少し勇気がいる。 …
2024/09/12 16:30
【戯曲】お米の妖精
●登場人物 お米・・・お米の妖精。全国の水田に現れては、お米の素晴らしさを説いて回っている。 農家・・・新潟でお米を…
2024/08/24 14:40
新しい人生のはじまり、はじまり
「第3の人生の始まりよ」 6月19日、わたしは歳の離れた友人とスペイン旅行へ出掛けた。 彼女はシングルマザーで、晴れてこ…
2024/08/06 08:50
【創作】いも煮就活生
今年も山形物産展がやってきた。 お昼休み、会社を抜け出して百貨店へ。 お目当ては抹茶ジェラートだ。 山形の老舗のお茶…
2024/08/05 19:15
【創作】あおいろ文庫
◯ 2024年5月1日(水) 来月から本屋を営業することになった。 今、流行りの一箱本棚オーナー制度の本屋だ。 ほんの出来心で…
2024/08/01 19:13
【創作】喫茶夕凪の交換日記
6月の第2土曜日、シャッター商店街の近道を通り抜けると、その看板が見えた。 『喫茶 夕凪』 図書館の帰り道、長居しない…
2024/07/31 08:55
それくらいのこと、なんてない
長いこと、婦人科に通っておりまして。 先日から「更年期障害の症状が出ます」というお薬を飲んでいます。       …
2024/07/17 19:25
今夜、乾杯しよう
10年前、わたしはお酒をぱたっと辞めた。 お酒を飲まない生活が心地良く、気が付いたら10年経っていた。 10年経つと、この…
2024/05/27 23:36
【創作】赤い靴下
「お嬢さん」 店員の私を"お嬢さん"と呼ぶ人は初めてだった。 振り返ると、シルバーヘアのマダムが微笑んでいた。 ショ…
2024/05/26 20:00
【創作】とりとさかなの雑貨店
-------------------------------------- あおだま先生、こんにちは。 来週の木曜日は運動会なので 午前中で学校が終わりま…
2024/05/23 23:23
もっと見る
タグ
タイッツー(11)
戯曲(6)
🪽(5)
ねこ(4)
🍎🍎(4)
日記(1)
もっと見る