小道具
公開 2025/01/09 08:25
最終更新
2025/01/09 08:25
A・・・映画制作会社の小道具。
B・・・その場に、たまたま居合わせた物書き。
実話です。
居酒屋。打ち上げ会場。小上がりのような場所。
舞台中央、居酒屋によくある、木製の長テーブルが横向きにひとつ。
AとBが隣同士、居酒屋の壁に背を付け、畳の上に座っている。
Bは、対面に居る呑兵衛と話しているようだ。
A (Bの肩を、人差し指でちょんちょんとする)
B は、はい。
A 小道具やりませんか?
B はい?
A 小道具。
B 小道具。
A 私、映画会社で小道具やってるんですよ。(名刺を見せる)
B おー。(超有名だ)
A 小道具は、慢性的な人不足で、こうやって、会う人、会う人、スカウトしてるんです。
B おー。(面白い人だな)
A この前、アシスタントの子が辞めちゃって。私、今、3年間ずっと、休みの日がありません。
B おー。(おーっ!)
AとBの前に、注文した料理が並べられたようだ。
B 映画の小道具って、どんなお仕事なんですか?
A 私は、靴とか、腕時計とか、こだわりを持って選んでますね。
B そういうのは、衣裳さんじゃないんですね。
A 小道具がやってますね。台本を読んで、「この人、性格が悪そうだな」って役には、先の尖った靴を履かせるようにしています。
B おー。(面白いな)
A 嫌(や)な奴って、必ず、先の尖った革靴、履いてません?
B 分かります、分かります。
A あと、高級腕時計。先の尖った靴と、お高そうな腕時計を、必ず用意するようにしています。
B あはは。先の尖った、茶色い革靴ですね?
A そうです、そうです。台本読んで、性格悪そうな役だと、「先の尖った靴、用意できるーっ」って、わくわくします。
B、楽しそうな仕事なので、気持ちが揺らぐが、『3年間、休みがない』ことを思い出し、踏みとどまる。
A 私、ペット飼ってるんですよ。
B へええ。何ですか?
A 猫です。
B おー。うちもです。
A スマホに、ペットカメラ入れてて。仕事中に、ペットカメラを見るのが癒しです。
A、スマホの画面をBに見せる。
薄暗い一人暮らしの部屋に、うごめく動物の黒い影。
B かわいいですね。
A 壁紙はズタボロです。
B 分かります、分かります。
A やりませんか、小道具。
B やらないですね。
A 何でよー。
B よくぞ、その切り口で、「イケる」って思いましたね。
A やりましょうよ、小道具。スケジュール、こんなんですけど。
A、スマホの画面をBに見せる。
B うわぁーっ!
A 激務ですね。
B 一人ですしね。
A ねぇ、やりましょうよー、小道具ー。
B だから、やらないですよ。
A、永遠にBを誘い続ける。
B、永遠に断り続ける。
居酒屋の背景だった壁が、地鳴りのような大きな音を立て、舞台奥へ一気に倒れる。
A、B、気にせず喋り続けている。
壁が倒れると、そこには大勢の裏方が舞台装置を作っていた。
大道具はセットを組み立て、照明は脚立に登り、大型クレーンのカメラが頭上から降りてくる。
音響のサウンドチェックが始まった。
マイクを持ち、独特な節回しで「テスト、テスト」と繰り返す、黒いジャンパーの男が現れる。
下手から上手へ、衣裳の女性が横切っていく。
左手には大量のハンガーに吊るされた色とりどりの洋服、右手には先の尖った茶色い革靴を、人差し指と中指に引っ掛けながら運んでいる。
舞台には、舞台を創る音が鳴り響いている。
暗転。
🐈🐈
B・・・その場に、たまたま居合わせた物書き。
実話です。
居酒屋。打ち上げ会場。小上がりのような場所。
舞台中央、居酒屋によくある、木製の長テーブルが横向きにひとつ。
AとBが隣同士、居酒屋の壁に背を付け、畳の上に座っている。
Bは、対面に居る呑兵衛と話しているようだ。
A (Bの肩を、人差し指でちょんちょんとする)
B は、はい。
A 小道具やりませんか?
B はい?
A 小道具。
B 小道具。
A 私、映画会社で小道具やってるんですよ。(名刺を見せる)
B おー。(超有名だ)
A 小道具は、慢性的な人不足で、こうやって、会う人、会う人、スカウトしてるんです。
B おー。(面白い人だな)
A この前、アシスタントの子が辞めちゃって。私、今、3年間ずっと、休みの日がありません。
B おー。(おーっ!)
AとBの前に、注文した料理が並べられたようだ。
B 映画の小道具って、どんなお仕事なんですか?
A 私は、靴とか、腕時計とか、こだわりを持って選んでますね。
B そういうのは、衣裳さんじゃないんですね。
A 小道具がやってますね。台本を読んで、「この人、性格が悪そうだな」って役には、先の尖った靴を履かせるようにしています。
B おー。(面白いな)
A 嫌(や)な奴って、必ず、先の尖った革靴、履いてません?
B 分かります、分かります。
A あと、高級腕時計。先の尖った靴と、お高そうな腕時計を、必ず用意するようにしています。
B あはは。先の尖った、茶色い革靴ですね?
A そうです、そうです。台本読んで、性格悪そうな役だと、「先の尖った靴、用意できるーっ」って、わくわくします。
B、楽しそうな仕事なので、気持ちが揺らぐが、『3年間、休みがない』ことを思い出し、踏みとどまる。
A 私、ペット飼ってるんですよ。
B へええ。何ですか?
A 猫です。
B おー。うちもです。
A スマホに、ペットカメラ入れてて。仕事中に、ペットカメラを見るのが癒しです。
A、スマホの画面をBに見せる。
薄暗い一人暮らしの部屋に、うごめく動物の黒い影。
B かわいいですね。
A 壁紙はズタボロです。
B 分かります、分かります。
A やりませんか、小道具。
B やらないですね。
A 何でよー。
B よくぞ、その切り口で、「イケる」って思いましたね。
A やりましょうよ、小道具。スケジュール、こんなんですけど。
A、スマホの画面をBに見せる。
B うわぁーっ!
A 激務ですね。
B 一人ですしね。
A ねぇ、やりましょうよー、小道具ー。
B だから、やらないですよ。
A、永遠にBを誘い続ける。
B、永遠に断り続ける。
居酒屋の背景だった壁が、地鳴りのような大きな音を立て、舞台奥へ一気に倒れる。
A、B、気にせず喋り続けている。
壁が倒れると、そこには大勢の裏方が舞台装置を作っていた。
大道具はセットを組み立て、照明は脚立に登り、大型クレーンのカメラが頭上から降りてくる。
音響のサウンドチェックが始まった。
マイクを持ち、独特な節回しで「テスト、テスト」と繰り返す、黒いジャンパーの男が現れる。
下手から上手へ、衣裳の女性が横切っていく。
左手には大量のハンガーに吊るされた色とりどりの洋服、右手には先の尖った茶色い革靴を、人差し指と中指に引っ掛けながら運んでいる。
舞台には、舞台を創る音が鳴り響いている。
暗転。
🐈🐈