『灯台へ』ヴァージニア・ウルフ

大学生の時、授業で『ダロウェイ夫人』を読んだおぼろげな記憶がある。
彼女の代表作の一つである『灯台へ』が新潮文庫から出たと聞いて、買ってみた。

登場人物たちの思考を追って視点がくるくると入れ替わるので、慣れないうちは読みにくい。
散漫でまとまりの無い印象を受ける。
だけど文章の呼吸が分かってくると、するすると読めるようになる。
居間の隅っこに座って一家の様子を眺めてるような気分になってくる。
本と自分が馴染んでくるこの過程が気持ちいい。

第2部「時はゆく」がすごく好き。
映画でよくある「それから〇年――」的な、季節の移ろいを早回しで流して
年月の経過を表現するシーンを文章で見事に表現している。
いや、時代的には映画の方が『ウルフの文章の映像化』なのかもしれないけど。

第1部で丁寧に描写された屋敷とそこに集っていた人々が、
時間の流れに容赦なく押し流されていく様子がなんとも儚い。
読んでいてすごく気持ちいい。

青が印象的な表紙もとても好き。
鞄から取り出して、じっくり眺めてから読み始める。
カバーをつけるのはもったいない。



『かわいそ笑』梨

破滅的な気分になると「ヒトコワ系ホラーが読みたい！」欲求が抑えられなくなる。
ストレスが溜まってる時により強いストレスをかけるとメンタルを癒すことができるのである。

そういうわけで表紙とタイトルからヒトコワ系だと思い込んで読み始めたんだけ
ど、全っっ然そんなこと無かった……。
もちろんヒトコワ要素もあるにはあったけど、ネットを媒介にして集まった
無数の悪意の集合体が怪異と化してるというか。

「Aというやばい奴がいて」とか「BとCの間にこんなトラブルがあって」とか、
そういう具体的な、名前のある誰かが登場しない。
本文は掲示板の書き込みやインタビューの文字起こしから構成されている。
想像を逞しくすれば、その向こうにうっすらと見えてくる、誰かの悪意……。

深夜の自室でQRコード読み取るのイヤすぎたけど見ずにはいられないんだよな……。
びくびくしながらリンクを開いた。
そういうドキドキ感も含めてものすごく面白い本だった。

話の本筋とは関係ないけど、「キリ番」とか「虹夢」とかいうニッチな単語が飛び出してきて
懐かしい気持ちになると同時に「この本の読者層に伝わるの！？」と気になった。



『死体埋め部の青春と悔恨』斜線堂有紀

死体埋め……文字通り、人知れず『死体を埋める』という大きな罪と秘密を共有する二人、
という背徳的ゆえに人を惹きつけるシチュエーション。
一部の界隈で定期的に話題になるやつ。

新入生歓迎会の帰りに暴漢に襲われ、はずみで返り討ちにしてしまった主人公。
そんな窮地に手を差し伸べてくれたのは、死体埋めを生業とする同大学の先輩だった。
死体を埋めるため車を走らせながら、死体にまつわる謎を解く…というお話。

助けてくれた先輩は果たして天使か悪魔か、煩悶しつつも
先輩を拒み切れない主人公が非常に良かった。

もう一作あるようだけれど、タイトルからして続編というよりは幕間のお話かな？
ひとまずこちらもkindleの本棚に入れた。



『とらすの子』芦花公園

仕事が立て込んでいてストレスが溜まっていたので、またしても怖い本を物色。
ついに芦花公園に手を出す時がやって来た。

主人公は三流オカルト雑誌のライター。
記事のネタに困ってネットで噂になってる新興宗教の集会に潜入してみたら
その教祖様の力は本物だった…という良くある感じの導入ではあったのですが。

めちゃくちゃ面白い。

いや、お世辞にも「面白いよ！おすすめ！」と人に気軽に勧められる内容とは言い難い。
趣味の合う長年の友人にだってちょっと勧めづらい。
人間の最悪さと人を狂わせる美少年を味わいつつ一人でにちゃにちゃ読むには最高の一冊。

とりあえず作家読み決定。
シリーズものもあるみたいなので楽しみ。